家がなければ始まらない。ミュンヘンでのWG探し

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ドイツへ来てから最初の2か月間は、日本の留学エージェントが手配してくれた語学学校のWGで暮らしていた。

場所は、ミュンヘン中央駅から徒歩5分ほど。

街の中心にあり、語学学校へ通うにも、買い物へ行くにも便利な場所だった。

ただし、家賃は週270ユーロ。当時のレートは1ユーロ約185円だったので、日本円にすると1週間で約5万円。単純に4週間で計算しても、1か月約20万円になる。

延長することもできたが、それほど貯金に余裕のなかった私に、その選択肢はなかった。

2か月の滞在期間が終わるまでに、自分で次の家を見つけなければならない。

こうして、ミュンヘンでのWG探しが始まった。

家はある。でも、返事が来ない

ミュンヘンで家を探すのは、かなり大変だと聞いていた。

そして実際に探し始めると、その話が大げさではなかったことをすぐに思い知らされた。

私が使ったのは、「WG-Gesucht」と「Kleinanzeigen」という2つのサイトだった。

最初に設定した条件は、ミュンヘン中心部から10キロ圏内、家賃600ユーロ以下。

検索すると、条件に当てはまる部屋は一応出てくる。

「意外とあるやん」

最初はそう思った。

しかし、気になる部屋へ連絡しても、ほとんど返事が来ない。

募集が掲載された直後でも、すでに多くの人から問い合わせが届いているのだと思う。

家は検索結果に出てくる。

でも、返信は来ない。

ミュンヘンでの家探しは、部屋を見つけるところではなく、相手から返事をもらうところから難しかった。

初めて届いた内見の誘い

最初に返事が来たのは、Kleinanzeigenで見つけた物件だった。

「ぜひ内見に来てください」

そう連絡をもらい、私は素直にうれしかった。

初めての内見。

どんな部屋なのだろうと少しワクワクしながら、ある日の夕方に訪問することを決めた。

その日の午前中は、日本人の友達とプールへ行っていた。

英語もドイツ語もほとんど話せない私が、これから一人で内見へ行く。そのことを不安に感じていると、友達が言ってくれた。

「一緒についていこうか?」

迷わずお願いした。

このとき友達についてきてもらったことは、結果的に本当によかったと思う。

初めての内見で待っていたもの

内見先に到着し、大家へ電話をかけた。

着いたことを伝えると、そのまま部屋まで上がってくるように言われた。

玄関から出てきたのは、一人のおじさんだった。

その物件は一般的な学生同士のWGではなく、おじさんが暮らしている家の一室を借りるというものだった。

サイトのプロフィールには、休日は川で過ごすと書かれていた。

「なんかドイツらしいな」

募集を見たときはそう思い、特に警戒していなかった。

中へ案内されると、お茶とお菓子まで出してくれた。

ただ、会話をしていたのは、ほとんど一緒に来てくれた友達だった。

私は横で話を聞きながら、ときどきうなずくだけ。

それでも、部屋へ入った時点で思っていた。

「ここは、ないな」

トイレは汚く、風通しも悪い。部屋の中はとても暑かった。

しかし、本当に問題だったのは、部屋の汚さや暑さではなかった。

部屋にカメラがあった

貸し出す予定の部屋を案内してもらっていると、室内にカメラが設置されていることに気づいた。

最初は、何のためのものなのか分からなかった。

その後、おじさんから、

「私の部屋も見てみる?」

と聞かれたので、確認することにした。

部屋の中には、たくさんのモニターが並んでいた。

そして、そのモニターで家の中に設置されたカメラの映像を確認できるという。

貸し出す部屋だけではなかった。

キッチンや浴室にもカメラが設置されていた。

「嫌なら取り外すこともできる」

そう説明されたが、もはや取り外してもらえば済むという問題ではなかった。

生活する場所を常に監視されるかもしれない。

しかも、浴室にまでカメラがある。

さらに部屋を見渡すと、「I LOVE GAY」と書かれたマグカップが置いてあった。

もちろん、そのマグカップ自体が危険を意味するわけではない。誰を好きになるかと、その人が安全かどうかは、まったく別の話だ。

ただ、寝室やキッチン、浴室にまでカメラが設置され、別室のモニターで映像を確認できる環境だった。

すでに強い違和感と恐怖を覚えていた私は、目に入るものすべてに警戒してしまっていた。

「ここには絶対に住めない」

そう決めた。

それでも、その場ですぐに断るのは怖かった。

そこで、

「この後にも別の内見があります。来週までに返事をします。今日はお茶まで出していただいて、ありがとうございました」

そう伝え、友達と一緒にその家を出た。

もちろん、実際にはほかの内見予定などなかった。

とにかく、その場から無事に帰りたかった。

私にとって、ドイツで初めての内見は、家探しというより恐怖体験になった。

もし友達が一緒に来てくれていなかったら、冷静に断って帰ることができなかったかもしれない。

サイトを絞り、予算を上げた

初めての内見を終えた私は、家探しの方法を見直すことにした。

Kleinanzeigenを使うのをやめ、WG-Gesuchtだけで探す。

そして、家賃の上限を600ユーロから700ユーロへ引き上げた。

お金に余裕がないから安い部屋を探していたのに、条件を緩めなければ内見にすら進めない。

つらいところだったが、退去期限は迫っている。

家が決まらなければ、節約どころの話ではない。

そこから3日間、ほとんどの時間を家探しに使った。

新しい募集が出ていないか確認し、気になる物件があれば連絡する。

返事がなければ、次の部屋を探す。

それを繰り返した結果、ようやく3件の内見が決まった。

1件目、語学力で即終了

最初に訪れたのは、ミュンヘン中心部から電車で約30分の場所にあるWGだった。

住んでいたのは、20代から30代の男性2人と女性2人。

今回は一人で内見へ向かった。

初めての内見で怖い思いをした直後だったうえ、英語にもドイツ語にも自信がない。

到着するまで、かなり緊張していた。

家の中を案内してもらうと、大きなリビングがあり、庭までついていた。

「ここ、めっちゃええやん」

そう思った。

しかし、結果はすぐに出た。

「あなたとはコミュニケーションが取れないから、一緒に住むのは難しい」

そう言われ、そのまま帰宅することになった。

部屋の条件以前に、語学力で落とされた。

確かにWGでは、同じ家に住む人たちとの相性やコミュニケーションも重視される。

相手の言っていることも十分に理解できず、自分のこともうまく伝えられない。

断られても仕方がなかったと思う。

それでも、

「いい家やったのにな」

と思いながら帰った。

2件目、親切な大家ときれいな部屋

次に訪れたのは、中心部から約45分。

3件の中では、最も遠い場所だった。

しかし、大家はとても親切な人だった。

私が言葉を理解できないと分かると、ゆっくり話してくれた。難しい部分は翻訳を使いながら説明してくれた。

最初の物件とは、あまりにも違う。

それだけで、かなり安心できた。

部屋は内装を塗り替えたばかりで、とてもきれいだった。

4人で暮らすWGだが、その時点では、ほかの入居者はまだ決まっていなかった。

ただし、一つだけ気になる点があった。

家の中に洗濯機がない。

洗濯機は建物の地下にあり、8階建てのアパート全体で1台を共有するという。

しかも予約制で、使うたびに別途1ユーロが必要だった。

「8階建てで、洗濯機1台?」

さすがに不便そうだった。

大家は親切。

部屋もきれい。

しかし、立地は遠く、洗濯のたびに予約と支払いが必要になる。

決めきれず、最後の1件を見てから判断することにした。

3件目は、アリアンツ・アレーナの近く

最後に訪れたのは、アリアンツ・アレーナから徒歩10分ほどの場所にあるWGだった。

バイエルンを応援する私にとって、立地だけを見ればかなり魅力的だった。

家の中も、それほど悪くない。

20代から30代の男女が暮らしていた。

好きなチームのスタジアムが徒歩圏内にある。

日本にいた頃の自分が聞けば、迷わずここを選べと言ったかもしれない。

しかし、家の周辺はあまりきれいではなく、大家にも少し不安を感じた。

最初の内見での経験もあり、家の中だけでなく、大家を信頼できそうかという点も慎重に見るようになっていた。

アリアンツ・アレーナが近いことは魅力的だった。

それでも、毎日生活する家として考えた結果、私は2件目を選ぶことにした。

8平方メートル、家賃650ユーロ

2件目の大家へ、ここに住みたいと連絡した。

私が選んだのは、8平方メートルの部屋。

家賃は月650ユーロ。

日本円に換算すれば約12万円になる。

決して安くはない。

しかも、8平方メートルなので、かなり狭い。

それでも、

「家では寝るだけやし、まあええやろ」

そう考えることにした。

洗濯機は地下に1台しかない。

中心部からも約45分かかる。

完璧な部屋ではなかった。

しかし、大家が親切で、建物も部屋もきれいだった。

何より、退去期限が迫る中で、ようやく自分が住める場所を確保できる。

それだけで十分だった。

契約場所は、ホテルのフロント

大家へ入居したいと伝えると、契約書へサインするための場所を指定された。

「ミュンヘンのホテルのフロントが涼しいから、そこに来て」

なぜホテルのフロントなのか。

少し不思議だった。

ただ、暑い中で契約するより、涼しいホテルのほうがいい。

言われた場所へ行き、契約書の内容を確認してサインした。

こうして、私の次の家が決まった。

日本で家を借りるときには想像もしなかった場所で、ドイツの賃貸契約を結ぶことになった。

ミュンヘンでは、選ぶより選ばれる

家探しを始めた頃は、家賃600ユーロ以下、中心部から10キロ圏内という条件で探していた。

しかし、連絡を送っても返事が来ない。

初めての内見では、家の中に複数のカメラが設置されていた。

次に見つけた理想的なWGでは、コミュニケーションが取れないという理由で断られた。

最後には予算を700ユーロまで上げ、中心部から45分離れた8平方メートルの部屋を選んだ。

ミュンヘンでの家探しは、自分が好きな部屋を選ぶというより、まず相手から入居者として選んでもらう必要があった。

家賃、場所、広さ、設備。

すべての希望をかなえるのは難しい。

自分にとって何が大切で、どこまでなら妥協できるのかを考えなければならなかった。

それでも、無事に次の家は決まった。

初めての内見で感じた恐怖。

言葉が通じないという理由で断られた悔しさ。

親切な大家に出会えた安心感。

たった数日間の家探しだったが、感情はかなり忙しかった。

ドイツへ来る前の私は、

「まあ、なんとかなるやろ」

と言っていた。

今回も、確かになんとかなった。

ただし、ミュンヘンでWGを探すなら、できるだけ早く動いたほうがいい。

そして、少しでも危険や違和感を覚えたら、その部屋は選ばないこと。

家賃や立地も大切だが、安心して帰れる場所であることのほうが大切だ。

仕事が見つかっても、家がなければ生活は始まらない。

狭くても、遠くても、とりあえず自分が帰れる場所ができた。

8平方メートルの小さな部屋。

ここから、私のミュンヘン生活の次の2か月が始まった。