「好き」だけで選んだミュンヘンで、仕事が見つかった。

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ワーキングホリデーの滞在先には、ミュンヘン以外にもいくつかの選択肢があった。

日本人が多いことで知られるデュッセルドルフ。

ドイツの首都ベルリン。

フランクフルトやハイデルベルク。

それぞれに魅力があり、生活する場所として選ぶ理由もあったと思う。

それでも、私がミュンヘンを選ぶのに時間はかからなかった。

応援しているチームが、この街にあるから。

本当に、ただそれだけの理由だった。

バイエルンがあるから、ミュンヘンへ

高校3年生の頃から応援してきたバイエルン・ミュンヘン。

ドイツへ行くなら、好きなチームがある街に住みたい。現地で生活しながら、バイエルンを応援したい。

私にとっては、それがミュンヘンを選ぶ十分な理由だった。

治安や仕事の見つけやすさ、家賃や物価などを細かく比較し、最も暮らしやすい街を選んだわけではない。

先にミュンヘンを選び、その後で現実を考えた。

そして、少し後悔した。

物価を知ってから、少し不安になった

ミュンヘンは、ドイツの中でも物価や家賃が高い街として知られている。

私は日本で、それほど多くのお金を貯めてきたわけではなかった。

そのため、ミュンヘンを選んでから、

「物価が比較的安いハイデルベルクを選ぶべきだったんちゃうか」

と考えた日もあった。

好きなサッカーチームがあるという理由だけで、生活費の高い街を選んでしまった。

冷静に考えれば、もう少し現実的な選択肢もあったと思う。

でも今では、ミュンヘンを選んだからこそ出会えた人たちがいる。

そして、その人たちとの出会いがなければ、仕事も見つからず、本当に餓死していた可能性すらあったかもしれない。

少し大げさに聞こえるかもしれないが、お金も語学力も十分ではなかった私にとって、人とのつながりはそれくらい大きなものだった。

想像していたドイツでの仕事探し

ドイツへ来る前は、SNSでワーキングホリデーについて発信している人たちの投稿を参考にしていた。

そこで見た情報をもとに、仕事探しの方法も自分なりに想像していた。

カタコトの英語を使いながら、履歴書を持ってカフェを一軒ずつ回る。

「ここで働かせてもらえませんか」

そうやって直接店を訪ね、雇ってくれる場所を探す。

私の中では、それが海外での仕事探しだった。

実際に、仕事が見つかるまで8か月かかった人の話も聞いたことがある。

ただでさえ英語もドイツ語も話せない。

そんな自分を雇ってくれる場所が、本当に見つかるのだろうか。

ドイツへ来る前も、来てからも、その不安はあった。

そのため、日本にいる間に英語とドイツ語、2種類の履歴書を用意していた。

完璧ではなくても、とにかく直接店へ持っていくしかない。

そう思っていた。

しかし、実際の仕事探しは、想像していたものとはまったく違った。

必要だったのは、履歴書より人とのつながり

私が仕事を見つけるうえで一番大切だったのは、英語力でもドイツ語力でもなかった。

人とのつながりだった。

ミュンヘンで知り合った人から、日本食レストランを紹介してもらった。

その縁のおかげで、ドイツへ来て1か月も経たないうちに、アルバイト先を見つけることができた。

カフェを一軒ずつ回ることもなかった。

日本で準備した英語とドイツ語の履歴書も、結局一度も使わなかった。

仕事探しに8か月かかる可能性も覚悟していた私が、1か月以内に働く場所を見つけることができた。

ドイツへ来る前にSNSで見ていた世界と、自分が実際に経験した世界は違った。

もちろん、誰もが同じように仕事を見つけられるわけではない。

自分の場合は、本当に周りの人に恵まれていたのだと思う。

ミュンヘンは、確かに生活費の高い街だ。

それでも、この街を選んだから出会えた人がいて、その人が仕事につないでくれた。

もし物価だけを考えて別の街を選んでいたら、今とはまったく違う生活になっていたかもしれない。

日本食レストランで働き始めた

紹介してもらったのは、日本食レストランだった。

店にはドイツ人の店長と、日本人のスタッフが4人いる。そのうち2人が一緒に入り、店を回している。

日本人と一緒に働けるので、仕事の内容を確認したり、分からないことを聞いたりするときには安心感がある。

しかし、日本人と働いているからといって、英語やドイツ語が必要ないわけではない。

当然、お客様の多くは日本人ではない。

注文を聞く。

料理や飲み物について説明する。

質問に答える。

何気ない会話をする。

英語やドイツ語ができなければ、お客様と十分にコミュニケーションを取ることはできない。

語学学校やスーパーでは、分からなければ笑ってうなずいたり、必要最低限の言葉だけで切り抜けたりすることもできた。

でも、仕事ではそうはいかない。

自分から話さなければならない。

相手が何を求めているのか、理解しなければならない。

働き始めたことで、これまで以上に語学の必要性を感じるようになった。

日本人と働いていても、語学は必要だった

ドイツへ来る前は、日本食レストランなら日本語だけでも、ある程度は何とかなるのではないかと思っていた。

でも、実際にはそんなに簡単ではなかった。

一緒に働くスタッフが日本人でも、接客する相手とは英語やドイツ語で話さなければならない。

言いたいことがあるのに、言葉が出てこない。

相手の質問が分からず、ほかのスタッフに助けてもらう。

そんなこともある。

自分の語学力が足りないことで、周りに負担をかけていると感じることもある。

それでも、働く中で同じ言葉を何度も聞き、何度も使っていると、少しずつ分かることが増えていく。

最初はまったく聞き取れなかった言葉が、ある日突然聞こえることもある。

以前は言えなかった一言が、考えなくても口から出てくることもある。

まだ、お客様と自然に会話を楽しめるほどではない。

それでも、仕事をしながら少しずつ身につけていきたいと思っている。

ミュンヘンを選んでよかったのか

物価や家賃だけを考えれば、ミュンヘン以外の街を選んだほうが生活は楽だったかもしれない。

十分な貯金があったわけでもない。

英語もドイツ語も話せない。

仕事がすぐに見つかる保証もなかった。

それでも私は、バイエルンがあるという理由だけでミュンヘンを選んだ。

あまりにも単純で、計画性のない決め方だったと思う。

しかし、この街で多くの日本人と出会い、そのつながりから仕事を紹介してもらった。

第3章で書いたWM26の試合も、バイト先で知り合った仲間たちと一緒に観戦した。

仕事を見つけられただけではない。

ミュンヘンでの人との出会いが、私のドイツ生活そのものを支えてくれている。

もし別の街を選んでいたら、生活費はもう少し安かったかもしれない。

でも、今の仲間たちには出会えていなかった。

そう考えると、好きなチームがあるという理由だけで選んだミュンヘンも、間違いではなかったと思う。

ドイツへ来て分かったことがある。

海外生活では、事前に集めた情報や準備も大切だ。

でも、それ以上に人とのつながりに助けられることがある。

日本で一生懸命作った2種類の履歴書は、まだ一度も使っていない。

代わりに私を仕事へつないでくれたのは、この街で出会った一人の知り合いだった。

結局、人生はどこで誰と出会うか分からない。

好きという気持ちだけで選んだミュンヘン。

この街を選んでよかった。